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熊本地方裁判所 昭和26年(行モ)3号 決定

被申立人の申立人に対する昭和二十六年七月二日附代執行令書による代執行処分の執行はこれを停止する。

(裁判官 浦野憲雄 鍜冶四郎 下門祥人)

申立の趣旨

昭和二十六年七月二日被申立人が申立人に対し発したる市復第二二四号代執行令書による代執行を停止する。

との決定を求む。

申立の事由

一、申立人は熊本県飽託郡三和町北村甚太郎から熊本市下通町六十一番地宅地の内三十五坪二合一勺を昭和二十一年八月から賃借し之に約十二坪の店舗兼住宅を建築し、更に昭和二十四年十月頃増築をなし現在木造平家建柿板葺三十三坪五合の店舗兼住宅を有し之に拠つて雑貨化粧品類の販売業を営んでゐる。

二、然る処右宅地は熊本市特別都市計画復興事業第一次土地区劃整理施行地に編入せられ被申立人は昭和二十五年十二月十九日「換地予定地の指定について」なる市復第四三八号文書を申立人に送致し下通町六十一番地内の申立人従前の借地権地積三十五坪二合一勺を三十四坪六合八勺に指定した旨の通知を発したけれども、その指定通知書には換地予定地の地積が記載してあるのみで方位角度、間数形状等現地を特定せしむる何物をも表示してなく、その指定地域を明確に知る方便がない―尤も同年十二月二十六日熊本市復興局監理課から責任者の署名捺印共になき「十二月十九日市復第四三八号換地予定地借地権の指定(消滅)について通知書の添付図面を追送いたします」との旨の文書と一葉の青写真図面を送り届けたが、これとても僅かに指定区域らしきものゝ形状を知り得る程度で現地の所在を特定し得ないし、尚右指定通知書の末尾に「尚賃借権指定の部分並に境界は曩に発表した通りで何等異動ありませんので御了承願います」とあるが申立人は斯る発表を現在迄受けていない。従て該命令は移転を命じた地域を確知し得ないもので内容不明確実践不能の無効のものである。

三、然るに被申立人は同年同月二十六日市復第四四四号文書を以て昭和二十六年三月二十五日迄に前記建物を借地権指定にかゝる換地予定地に移転すべしと命令し、右期限内に任意移転しない場合は行政代執行法により代執行をなす旨戒告し来つたのである。而して更に昭和二十六年七月二日市復第二二四号代執行令書を発し、昭和二十六年七月十日を代執行期日とし移転につき代執行をなす旨通達したのである。

四、然れども下通町六十一番地附近に於ては被申立人の土地区劃整理は既に完了し、事実上道路も完備し宅地地積及借地地積の規模適正化の換地又は増減の指定も完了し、申立人が前記建物を移転せずとも何等特別都市計画法第五条第一項の区劃整理に支障を来さざる現状にある。

此場合申立人が移転せねば隣地の借地人である申立外沼田等の借地権地積が申立人従前の借地権地域に一部移動指定されたため、その部分に対する同人の借地権行使の妨げとなる虞があると言へるが、同人は北辺に豊後某の宅地を買取り手広き土地を有するに至り急々に自宅を移築する要なき現状である。従つて該移転命令は一私人沼田等の利を図るために発せられたものと見るべきであり、全く公法人たる被申立人が名を行政権の行使に藉りて私法上の法律関係に介人干渉するものであつて権限を超越した不法不当の行政処分である。詳言すれば沼田等が不必要に借地権(新しく指定された地域の)を行使するものとせば権利の濫用となるからである。被申立人は行政代執行法により右無効の移転命令を執行せんとするのであるが、以上の如く利害は単に相隣者間の土地賃借権の上にのみありて行政代執行法第二条に言ふ「不履行を放置することが著しく公益に反する」という事実は存在しない。故に代執行命令は同第二条に違反し無効である。

五、申立人は曩に右移転命令無効確認の訴を提起し目下昭和二十五年(行)第三四号として審理中である。而して申立人は前述の如く商人であり、盆の売出時期に備えて商品も多量に仕入れあるに遽かに此の如き命令を受けたのであつて、若し之が敢行されれば営業上は勿論、建物の価値の損傷は甚大な損害を生じ、償うべからざる損害となるので之を避けるため緊急の必要があるので行政事件訴訟特例法第十条により本申立に及ぶ次第である。

六、被申立人は右訴訟に於て準備書面を提出し、申立人が換地予定地の指定に従はなければ都市計画が遂行されない、従つて公益を害すると論じてゐるが申立人は換地予定地の指定が合法なものならば勿論之に従ふ意思がある。唯不法な指定だから争ふのであり尚又指定が合法であり、沼田等の賃借権が移動するものとしても、市の復興局は賃借権の区域を指定すれば足るので沼田等が自己の建物を移転することが申立人の移転せぬためできないと言ふ事態が生じ、それが復興事業遂行を妨げる事実があるなら公益に害があるとか、公共の福祉に反するとか言へるが本件の場合はその事実がないことは前述の通りであるから、停止命令を出されても公共の福祉に重大なる影響を及ぼす虞は絶対にない。

附属書類

委任状 一通

昭和二十六年七月五日

右申立代理人

弁護士 山本茂雄

熊本地方裁判所 御中

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